ビジネスモデル特許(その2)及び(その3)では、具体的な例を示しました。そこでは、「ビジネスモデル特許」と認められるためには、ざっくりと、「通信に関連するソフトウエアによって実現できるビジネス関連の発明」と判断されるように表現されていることが必要であると説明しました。ここでは、少し特許法の観点から説明しましょう。
特許法上、「ビジネスモデル特許」が特許されるためには、おおまかに、
(1)特許法上の発明に該当すること(発明該当性)
(2)発明が新しいこと(知られている発明と同じでないこと)(新規性)
(3)似た発明がないこと(知られている発明から簡単に発明できないこと)(進歩性)
が必要です(なお、ビジネスモデル特許に限られず、他の発明に対しても、これらの要件は要求されます。)。
装置などの発明は、通常は、(1)の発明該当性を満たすので、(2)新規性と(3)進歩性の要件をクリアできればよいのですが、「ビジネスモデル特許」の場合には、まず、(1)発明該当性をクリアしないと、(2)新規性や(3)進歩性まで進むことができません。
「ビジネスモデル特許」が特許法上の発明に該当するか否かの判断については、特許庁から出されている審査基準(附属書B第1章コンピュータソフトウエア関連発明)に解説されています。特に、「ビジネスモデル特許」に関連しそうな点をピックアップします。
(1) まず、大前提として、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」ことが必要です。
この「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることとされています。
「ハードウエア資源」とは、CPU、メモリ、入力装置、出力装置などのコンピュータなどを構成する要素のことです。
また、「使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築される」とは、「使用目的に応じた特有の情報の演算又は加工が実現されている」こととされています。
「使用目的に応じた」とは、例えば、演算処理などによって、「文書の要約を作成する」とか「売上げを予測する」とかなどと言えば、なんとなくご理解いただけるでしょうか。ですので、例えば、何の目的もなしに、数学や物理の公式などを単に演算処理して、式の結果を表示するようなものなどは除かれます。もちろん、「豪雨を予測する」とか「温度を予測する」などという目的のために、過去の実測値を用いて数学や物理の公式などで演算処理し、結果を情報を加工したり判断したりするものであれば、上記の要件を満たす可能性は出てきます。
なお、これまで、「ビジネスモデル特許」は、ざっくりと、「通信に関連するソフトウエアによって実現できるビジネス関連の発明」と説明してきました。上記の要件からすれば、「通信」は、要らないと思われるかもしれません。確かに、この要件からすれば、「通信」は、必須ではありませんが、これまでの経験からすると、「ビジネスモデル特許」は、基本的に、何らかの情報を受信して、加工して、判断して、何らかの情報を送信して、・・のようなものかと思います。そこまでしないと、特徴が出てこないというか、とりあえず特徴が出せるレベルまでにならないというか・・・。ですので、基本的に、「通信」は、必須だと思っていただいてよろしいかと思います。
(2) 次に、「ビジネスモデル特許」に特有なポイントして、
「ビジネスを行う方法に関連するソフトウエア関連発明は、ビジネスを行う方法に特徴があるか否かという観点ではなく、当該発明が利用するソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されているかによって、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するか否かが判断されることに審査官は留意する。
とあります。
すなわち、重要なポイントとして、「ビジネスを行う方法自体」にどんなに特徴があっても、発明には該当しません。あくまでも、特許法上の発明に該当するためには、ソフトウエアがハードウエアで実行されるときの処理などにポイントがあることが必要です。この点は、十分にご理解いただけれと思います。
これだけでは、まだ、よく判らないかもしれませんので、次回から少し具体例で説明してみたいと思います。